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電情日記

どうやって研究の価値を評価するのか?
-獲得資金から真の論文評価への模索-

山崎 克巳

個々人の研究者や大学全体の研究を評価するは大変難しい事と言えます。今はすぐに役に立たず,利益に結び付くようなものでなくても,将来の革新的変化へと繋がってゆく研究も多いからです。しかし,何事もフィードバックがないと停滞を招くため,何らかの方法で研究の価値を数値化して表す必要がある事は否めません。

従来よく行われていたのは,獲得資金,つまりどれだけ多くの研究費を戴いたかで評価する事でした。しかし,実験で莫大な費用が必要な研究もあれば,理論の構築が中心でコンピュータさえあればよいという研究もあり,前々からこれは明らかにおかしいと思っていました。そもそも,研究成果が出るのは研究費を戴いた後であり,本末転倒とは正にこの事です。それに,研究に限らず,評価にお金が絡むとろくなことがありません。

このようなこともあってか,最近になって,世界的に研究者の成果をまとめたものである論文の価値を数値化しようという方向になってきました。

まず,1万誌近くの論文雑誌が,どれだけ多くの人が参考にしているかで格付けが行われています。具体的には,各論文が他の論文で参考文献として引用された回数(被引用数)の平均値であるインパクトファクターと呼ばれる数値が使われています。このように各論文雑誌のインパクトファクターが決まると,一つ一つの論文の価値を数値化する事ができます。まず,その論文が掲載された論文雑誌のインパクトファクターをベースとし,次にその論文を参考文献として引用している論文誌のインパクトファクターを加算して行きます。つまり,質の高い論文にどれだけ多く参考にされたかを数値化しようという訳です。この方法は,膨大な論文データを処理できるようになった情報技術の進展で可能になってきたと言えます。

もちろん,これにも問題点があります。まず,この情報を取り纏めているのが,米国のトムソン・ロイター社であり,基本的に英語で書かれた論文のデータのみが集計されます。このため,我が国の電気学会で120年以上に渡って出版されてきた日本語の論文は,極めて不利な状況になっています。また,最もインパクトファクターの高い論文雑誌であるNatureで,STAP細胞事件の様な事が起こり,疑問の声も上がっています。しかし,使う前にお金をどれだけ集めたかで評価するのに比べたら,遥かにましであると思えてなりません。

さて,各論文のインパクトファクター合計値を手軽に調べるのはまだなかなか難しいですが,例えばIEEE(米国電気電子学会)では,各論文の被引用数を,次のように簡単にインターネット(IEEE Xplore)で調べることができます。

(1)     http://ieeexplore.ieee.org/Xplore/guesthome.jsp?reload=trueに接続します。

(2)     興味のある分野の単語をキーワードとしてSearchボタンを押します。

(3)     Sort by “Most cited (By Papers)”で,表示された論文を被引用数順に並び替えます。

では,私の研究分野のキーワードの一つである,”Motor”で試してみましょう。(2015年5月22日時点)

まず,Searchボタンを押すと,83,893件の論文が出てきました。一番古い論文はなんと1884年,モータの原型が発明された直後の頃の論文です。まだIEEEや我が国の電気学会が創設される前の時代で,論文誌名は“Journal of the Society of Telegraph-Engineers and Electricians”。今は存在しない雑誌です。一方,今年掲載された論文は,まだ5月なのに1000件を超えています。

次に,Sort by “Most cited (By Papers)で並び替えると,第1位の論文は実に1929件もの論文で引用されています。また,第2位は我が国の難波江先生,高橋先生,赤木先生が1981年に発表された,モータのインバータ駆動に関する論文で,被引用数は1454件。大変誇らしく思います。

図1に検索した全論文の被引用数を纏めてみます。横軸も縦軸も対数目盛です。驚いた事に,全体の約半数の4万件の論文は,他の論文から引用された形跡が全くありませんでした。実は前述の一番古い論文もこれに含まれており,古いからたくさん引用されているという訳ではないことがわかります。逆に10件以上引用されている論文は約8600件と全体の1割程度,更に100件以上引用されている論文は前述の2件を含むたったの33件,全体の僅か0.04%です。これらの論文はもう,神論文としか言いようがありません。このような偏りには明らかに意味があり,論文1本の価値は皆同じというのには無理があるように思います。

さて,恥ずかしながら私の論文はというと....ありました,2006年に大学院生の瀬戸嘉朗君と一緒にIEEE Transactions on Industry Applications(米国電気電子学会産業応用部門論文誌)で発表した“Iron loss analysis of interior permanent-magnet synchronous motors –Variation of main loss factors due to driving condition”が,被引用数70件で歴代第74位になっていました。難波江先生らの論文には遠く及ばず,神論文には成れませんでしたが,そこそこ多くの人に読まれており,ホッとしました。これ以外の自分の論文も被引用数を調べてみると,自信のあった論文の被引用数が意外に少なかったり,逆に査読の段階で厳しい意見が付いていた論文が出版後に多く引用されていたりと,本当に世の中に役立つ研究はどのようなものであるかを深く考えさせられます。

このように各研究の価値を簡単に数値化できる時代になってきました。前述のように,現在の評価の仕方には様々な問題もありますが,今後も改善を重ねながらこの方向で進んでゆくものと思われます。行った研究を公明正大に評価して戴けることは有り難く思うと同時に,この情報をフィードバックして更に価値の高い研究を行うべく,身の引き締まる思いのする今日この頃です。

図1 IEEE XploreのMotor関連論文における被引用数による分類 (過去131年間分)

以上

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