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電情日記

関数電卓と留学の思い出

杉浦 修

小原先生から「人のタイトルを盗んではいけません」とお叱りを受けそうですが,研究員として渡米していた頃の思い出です。ちなみに研究していたのは化合物半導体を使ったヘテロバイポーラトランジスタです。関数電卓を研究していた訳ではありません。ベル研で電流増幅率11000のトランジスタ[1]を作ってみせた頃,米国で経験した関数電卓にまつわる思い出話です。

皆さんはどんな関数電卓を使っていますか?大学に入学して学生実験をする頃になると,指数・対数・三角関数を計算できる関数電卓が欲しくなります。私はアルバイトで貯ためたお金でHP-29Cという関数電卓を買いました。当時,大学生協が取り扱っていたプログラム機能付き関数電卓がそれだけだったからという理由で選んだのですが,逆ポーランド記法で計算式を打ち込まなければならない代物でした。しかし,その使い方に慣れると,「書式通り入力方式」,「式通り入力表示」,「数学自然表示」よりもずっと使い易く感じられる関数電卓でして,もちろん,米国にも一緒に持っていきました。

しかし,それが故障してしまい,ニューヨークのマンハッタンに出かけて新しいHP電卓を買い求めることにしました。店員にHewlett-Packard社製の電卓を探していると告げると,それならこれだろうとひとつの電卓を出してくれました。表示がLEDから液晶に代わり,サイズも縦長から横長になり,しかも薄くなるなど色々変わっていましたがHP-29Cで慣れ親しんだ指数関数などのキートップが見えたので,あまり吟味せずに買ってしまいました。ニュージャージーの家に戻り早速動作確認です。「四則演算はOK。指数関数も使える。次は三角関数だ。」という段階にきて「sin,cosがない!」ということに気づきました。吟味せず買ってしまったのはfinancial calculator(金融電卓)のHP-12Cでした。自分が探していたのはscientific calculatorでした。「指数関数があればそれは関数電卓だから三角関数も計算できる」とか「電卓には,四則演算と平方根ができる程度の電卓と,指数・対数・三角関数も計算できる関数電卓の2種類ある。(2種類しかない。)」などというのは勝手な思い込みでした。世の中「思い込みは禁物」ですね。

ニューヨークまで行かずとも家の近くをよく探せばお目当てのscientific calculatorを売っている店があり,そこで改めて購入したのがHP-15Cです。HP-12Cが今でも販売されているのに対して,HP-15Cはだいぶ昔に製造中止になってしまいました。「今もっているHP-15Cが壊れたらどうしよう。もっと大きくて無骨でよいなら逆ポーランド記法が使える機種はあるけれど」と心配していたところ,昨年の秋,復刻版が出ました。さっそく購入したのは言うまでもありません。
科学的な実験・測定をするなら関数電卓は必須のアイテムでしょう。人それぞれ使う道具にはこだわりがあるものです。私の好みを人に押し付けるつもりはありません。どんな機種でも構いません。その道具をフルに使い切ってください。千葉工業大学に入学するとPPA(Parents and Professors Association)から関数電卓のプレゼントがあります。オーソドックな機種ですが大学の講義・演習・実験に充分に使える関数電卓です。100円(税抜)で買える電卓と同じ機能しか使わないなんてことのないよう十分に活用してください。

左の写真:傷が多いけれども約25年前米国で購入して今でも現役のHP-15Cです。
右の写真:昨年秋購入した復刻版のHP-15Cです。Limited Editionの文字が見えます。どちらも69! を計算した結果を表示しています。計算スピードは復刻版の方が速い!

1)電流増幅率11000は桁間違いではありません。ふたを開けたらダーリントン接続した2個のトランジスタが入っていたという落ちでもありません。正真正銘,トランジスタ1個の電流増幅率です。詳しくは次の文献を参照してください。
Electron Device Letters, vol.9, no.5, p.253,1988.

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