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電情日記

国際会議と学術論文

脇田 和樹

昨年の9月1日から5日まで新潟市の朱鷺メッセにて第19回三元多元化合物国際会議(ICTMC-19)が開催されました。ICTMCは1973年(バス、英国)から続く伝統ある会議であり、構成元素が三元以上の化合物を切り口として太陽電池材料、発光材料、熱電材料、超電導材料など様々な分野の専門家が集まり、結晶成長分野、材料評価分野、コンピューター材料設計分野などでそれぞれの最新情報を紹介して議論する場です。今回は15か国から224名の参加者、約200件の発表があり盛況でした。また、これまでアジアからの参加は日本、中国、韓国、台湾からだけだったのですが、今回はタイから5名、フィリピンから4名の参加もあり、アジアでの科学技術の広がりを感じました。私の主な仕事はプログラム委員長、組織委員および国際諮問委員として大会運営の裏方でしたが、私の研究室からは大学院生5名が日頃の成果を発表しました。太陽電池材料に関する発表が3件とタリウム化合物の光学的特性に関する発表が2件でした。

ICTMCには私はシュトゥットガルト(ドイツ)で開催された第10回から参加していますが、それから20年になり昔からの顔なじみも増えました。国際会議ではそのような研究者仲間と久々に会い様々な話をじっくりできる機会があり、私にとって非常に有意義な場ですが、学生にも国内会議とは異なり他の研究者や学生と話せる機会が多くあり有用であると思っています。

会議後には、発表者に発表論文をドイツの論文誌Physica Status Solidi(pss)(WILEY-VCH)に投稿してもらい、先週の6月17日にpss(b)とpss(c)に97件の論文が掲載されました。私もこれらの論文誌の客員編集者としての仕事からやっと解放され一段落したところです。 また、研究室の学生の論文は5件とも無事採択されました。学生にとってもアブストラクト投稿から始まり、論文発表、論文投稿、レフリーとのやり取り、論文採択通知まで貴重な経験だったと思います。研究の成果を出すために努力することも重要ですが、その結果を以上のような形でまとめることも同様に研究にとっては重要なことです。次回2016年に開催されるICTMCは20回の記念大会で、ドイツのライプチヒに近いハレにあるMartin-Luther-UniversityのR. Scheer先生がChair personとなりました。まだ開催場所は正式に決定されていませんが、学生にも発表してもらいたく、学生の研究に対する努力とその成果を楽しみにしています。

電情日記

世界結晶年と半導体結晶

山本 秀和

今回は、私が研究テーマとしてきた半導体結晶の話をしたいと思います。

昨年2014年は「世界結晶年」に定められました。約100年前、マックス・フォン・ラウエ博士はX線による結晶の回折現象の謎を解明し1914年にノーベル物理学賞を受賞しました。そして、ヘンリー・ブラッグとローレンス・ブラッグ父子はX線回折により食塩の結晶構造を明らかにし、1915年にノーベル物理学賞を受賞しました。これらの業績の100周年を記念して、2014年が世界結晶年として制定されました。

結晶(クリスタル)というと、石英や雪の結晶を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。そもそも結晶とは何でしょう?簡単にいうと、結晶とは原子が結合して規則正しく配列した状態です(現在の正式な定義とは異なります)。結晶中の原子の配列にはいくつかのパターンがありますが、X線回折という現象を利用することにより構造を調べることができます。結晶中の原子の間隔はおよそ10-10m(0.1nm、1Å(オングストロームと読みます))程度です。X線は波長が10-11m(0.01nm)から10-8m (10nm)程度の電磁波ですので、原子の配列パターンを調べる良いものさしになります。

また20世紀には、量子力学と呼ばれる原子サイズのミクロな領域での現象を説明する新たな理論が確立しました。そして量子力学を用いて、結晶が電気を良く通す金属になったり、電気を通しにくい絶縁物になったり、電気を適度に通す半導体になったりするという性質を説明できるようになりました。この半導体の適度に電気を通すという性質は、いろいろな操作により電気の通し方をコントロールできることにつながり、様々に利用されています。それまで真空管で行われていた整流、検波、増幅、撮像、映像や電球や蛍光灯による照明などが全て半導体を用いて実現できるようになりました。

現在最も広く利用されている半導体はシリコン(Si、ケイ素)です。シリコンは、地表に酸素に次いで多く存在する元素であり(SiO2の形で存在しています。いわいる土や砂です)、比較的安く製造できることもあり、広く普及しています。みなさんの持っているスマホやiPadは、シリコンLSI(大規模集積回路)の塊です。これほど小さい機械の中にこれほど様々な機能を閉じ込められるのは、ひとえにシリコンLSIの恩恵です。考えたり記憶したりという人間の脳の機能から、カメラ、マイクやGPS機能までシリコンで実現されています。また、自然エネルギーの有効活用を可能にした太陽電池も半導体で製造されています。最も普及している太陽電池もシリコンでできています。

半導体は電気を光に変換(発光)することも可能です。シリコンは、光を発すること、特に可視光の発光は苦手です。可視光の発光は、化合物半導体と呼ばれる半導体で実現されています。光には赤、緑、青の光の三原色があり、この3つを組み合わせて様々な色を作り出すことができます。赤色と緑色の発光ダイオード(LED)は、ガリウム(Ga)、りん(P)、ヒ素(As)等の化合物で実現できました。

一方、青色は長く実現できていませんでしたが、ガリウム、窒素(N)、アルミニウム(Al)からなる化合物半導体により実現できました。皆さんもご存じの通り、昨年赤崎勇博士、天野浩博士、中村修二博士の3人が、窒化ガリウム(GaN)を用いた青色発光ダイオードの実用化で、ノーベル物理学賞を受賞されました。赤崎先生と天野先生が行ったのは、窒化ガリウム結晶の高品質化でした。そして中村先生が行ったのは、窒化ガリウム結晶の量産化技術の確立でした。世界結晶年にふさわしいノーベル賞だったと思います。

シリコンLSIの製造は、結晶メーカーとデバイスメーカーで完全な分業体制で行われています。シリコン結晶と円形のウエハ(図参照)への加工を結晶メーカーが行い、ウエハ上へのデバイスの作りこみをデバイスメーカーが行っています。昨年が世界結晶年ということで、応用物理学会でシリコン結晶の進化に関する座談会が行われました。結晶製造技術の開発、結晶評価技術の開発、デバイス製造技術の開発を長年行ってきた代表が集まり、苦労話などを語り合いました。私もデバイス製造技術の開発者として座談会に参加しました。この内容は、応用物理学会誌の2015年5月号に掲載されています。

私は1992年から2001年の間、三菱電機でシリコンLSI用の結晶技術開発を行っていました。その間、結晶に起因したトラブルが何度か発生しました。最大のトラブルは、COPと呼ばれるシリコン結晶中の欠陥でした。このCOPへの対策は、結晶メーカーとデバイスメーカーが協力して行いました。上記の座談会では、この時の経緯が生々しく語られています。

詳しい内容を記載することはしませんが、興味深いのは(原因が判れば当然なのですが)このトラブルが、全デバイスメーカー(メモリ製造メーカーのNEC、東芝、日立、富士通、三菱電機、サムソン電子)で同時に発生したことです。そして、対策(結晶の作り方)の方法がデバイスメーカー毎に違っていたことです。対策に対するいくつかの選択肢の中で、技術者(三菱電機の場合は私)の好みが現れた結果です。この対策は、私の約25年の会社人生の中でも3本の指に入る大きな出来事でした。

皆さんも就職して様々なトラブルに遭遇することがあるかと思います。そのような際は、全身全霊を傾けて対応してください。その時は大変ですが、後から振り返ると懐かしい思い出になるかもしれません。

シリコン結晶と板状に加工したウエハ(株式会社SUMCO殿提供) デバイスメーカーはウエハ上にデバイスを製造します。


:座談会の内容は、千葉工業大学2号館12階の研究室前に掲載してあります。

 

電情日記

どうやって研究の価値を評価するのか?
-獲得資金から真の論文評価への模索-

山崎 克巳

個々人の研究者や大学全体の研究を評価するは大変難しい事と言えます。今はすぐに役に立たず,利益に結び付くようなものでなくても,将来の革新的変化へと繋がってゆく研究も多いからです。しかし,何事もフィードバックがないと停滞を招くため,何らかの方法で研究の価値を数値化して表す必要がある事は否めません。

従来よく行われていたのは,獲得資金,つまりどれだけ多くの研究費を戴いたかで評価する事でした。しかし,実験で莫大な費用が必要な研究もあれば,理論の構築が中心でコンピュータさえあればよいという研究もあり,前々からこれは明らかにおかしいと思っていました。そもそも,研究成果が出るのは研究費を戴いた後であり,本末転倒とは正にこの事です。それに,研究に限らず,評価にお金が絡むとろくなことがありません。

このようなこともあってか,最近になって,世界的に研究者の成果をまとめたものである論文の価値を数値化しようという方向になってきました。

まず,1万誌近くの論文雑誌が,どれだけ多くの人が参考にしているかで格付けが行われています。具体的には,各論文が他の論文で参考文献として引用された回数(被引用数)の平均値であるインパクトファクターと呼ばれる数値が使われています。このように各論文雑誌のインパクトファクターが決まると,一つ一つの論文の価値を数値化する事ができます。まず,その論文が掲載された論文雑誌のインパクトファクターをベースとし,次にその論文を参考文献として引用している論文誌のインパクトファクターを加算して行きます。つまり,質の高い論文にどれだけ多く参考にされたかを数値化しようという訳です。この方法は,膨大な論文データを処理できるようになった情報技術の進展で可能になってきたと言えます。

もちろん,これにも問題点があります。まず,この情報を取り纏めているのが,米国のトムソン・ロイター社であり,基本的に英語で書かれた論文のデータのみが集計されます。このため,我が国の電気学会で120年以上に渡って出版されてきた日本語の論文は,極めて不利な状況になっています。また,最もインパクトファクターの高い論文雑誌であるNatureで,STAP細胞事件の様な事が起こり,疑問の声も上がっています。しかし,使う前にお金をどれだけ集めたかで評価するのに比べたら,遥かにましであると思えてなりません。

さて,各論文のインパクトファクター合計値を手軽に調べるのはまだなかなか難しいですが,例えばIEEE(米国電気電子学会)では,各論文の被引用数を,次のように簡単にインターネット(IEEE Xplore)で調べることができます。

(1)     http://ieeexplore.ieee.org/Xplore/guesthome.jsp?reload=trueに接続します。

(2)     興味のある分野の単語をキーワードとしてSearchボタンを押します。

(3)     Sort by “Most cited (By Papers)”で,表示された論文を被引用数順に並び替えます。

では,私の研究分野のキーワードの一つである,”Motor”で試してみましょう。(2015年5月22日時点)

まず,Searchボタンを押すと,83,893件の論文が出てきました。一番古い論文はなんと1884年,モータの原型が発明された直後の頃の論文です。まだIEEEや我が国の電気学会が創設される前の時代で,論文誌名は“Journal of the Society of Telegraph-Engineers and Electricians”。今は存在しない雑誌です。一方,今年掲載された論文は,まだ5月なのに1000件を超えています。

次に,Sort by “Most cited (By Papers)で並び替えると,第1位の論文は実に1929件もの論文で引用されています。また,第2位は我が国の難波江先生,高橋先生,赤木先生が1981年に発表された,モータのインバータ駆動に関する論文で,被引用数は1454件。大変誇らしく思います。

図1に検索した全論文の被引用数を纏めてみます。横軸も縦軸も対数目盛です。驚いた事に,全体の約半数の4万件の論文は,他の論文から引用された形跡が全くありませんでした。実は前述の一番古い論文もこれに含まれており,古いからたくさん引用されているという訳ではないことがわかります。逆に10件以上引用されている論文は約8600件と全体の1割程度,更に100件以上引用されている論文は前述の2件を含むたったの33件,全体の僅か0.04%です。これらの論文はもう,神論文としか言いようがありません。このような偏りには明らかに意味があり,論文1本の価値は皆同じというのには無理があるように思います。

さて,恥ずかしながら私の論文はというと....ありました,2006年に大学院生の瀬戸嘉朗君と一緒にIEEE Transactions on Industry Applications(米国電気電子学会産業応用部門論文誌)で発表した“Iron loss analysis of interior permanent-magnet synchronous motors –Variation of main loss factors due to driving condition”が,被引用数70件で歴代第74位になっていました。難波江先生らの論文には遠く及ばず,神論文には成れませんでしたが,そこそこ多くの人に読まれており,ホッとしました。これ以外の自分の論文も被引用数を調べてみると,自信のあった論文の被引用数が意外に少なかったり,逆に査読の段階で厳しい意見が付いていた論文が出版後に多く引用されていたりと,本当に世の中に役立つ研究はどのようなものであるかを深く考えさせられます。

このように各研究の価値を簡単に数値化できる時代になってきました。前述のように,現在の評価の仕方には様々な問題もありますが,今後も改善を重ねながらこの方向で進んでゆくものと思われます。行った研究を公明正大に評価して戴けることは有り難く思うと同時に,この情報をフィードバックして更に価値の高い研究を行うべく,身の引き締まる思いのする今日この頃です。

図1 IEEE XploreのMotor関連論文における被引用数による分類 (過去131年間分)

以上

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