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電情日記

尖閣諸島レアアースショック後の世界と誘導電動機

山崎 克巳

これまでのこのコーナーでも紹介しましたが,千葉工大の山崎研究室ではモータや発電機などの電気機器の研究を行っています。昨年7月は,当研究室で行ったハイブリッド自動車用モータの開発について解説しました。あれからたったの1年ですが,我々の研究テーマを取り巻く世の中の情勢が激変しました。

ひとつは言うまでもなく今年3月11日の東日本大震災の影響です。これから我々はどのように電気エネルギーを得るべきか,皆で議論しなければいけない問題です。自然エネルギーの利用ための発電技術がより一層求められています。また,先進工業国では発電した電力の半分以上がモータで使われていますので,モータの高効率化の要求も更に高まっています。例えば,電力が足りなくとも電気自動車の発展は止まりません。エンジンよりモータの方が総合的な効率が高いためです。

そしてもう一つが,昨年9月の尖閣諸島の事件以来供給不安となっている,レアアースマグネット(希土類永久磁石)の問題です。熱減磁に強い磁石に不可欠なジスプロシウムの供給を中国に全面的に依存していた問題は,2008年2月のこのコーナーで既に指摘していましたが,来るべき時が来たという感じです。過去20年間,希土類永久磁石は各種モータの高効率化に大きく寄与し,希土類永久磁石がなければハイブリッド自動車は開発されなかったといっても過言ではありません。ところが昨年9月以来,中国からのジスプロシウムの供給が滞り,磁石の値段がものによっては10倍以上に跳ね上がっています。磁石メーカは中国に代わる供給先を以前から懸命に探していますが,コスト的に成立するところは未だ見つかっていません。性能的に同等な代替材料の開発も当面は難しい状況です。

このため,世界中の研究機関が,希土類永久磁石を用いずに同等の効率が得られるようなモータの研究を現在盛んに行っています。ひとつのオプションとして,再びスポットライトが当たってきたのが誘導電動機です。そこで今回は,誘導電動機の動作原理と現状について,わかりやすく解説したいと思います。

図1に永久磁石同期電動機と誘導電動機を概略的に示します。永久磁石同期電動機は,図の内側の回る側(回転子)に永久磁石が用いられています。外側の止まっている側(固定子)のコイルに電源から三相交流を流してN極とS極を回転させてやると,固定子と回転子のN極,S極で吸引・反発力が生じて回る仕組みです。一方,誘導電動機も固定子の仕組みは永久磁石同期電動機と同じですが,回転子には磁石がありません。磁石の代わりに電源のつながっていないコイルがあるだけです。固定子のN極とS極を回転させてやると,ファラデーの電磁誘導の法則に従って,極の回転を妨げるような電流が「自然に」回転子に流れます。この電流が回転子に極を作って,固定子との間で吸引・反発力が生じて回ります。自然の現象を利用した実に不思議な仕組みですね。誘導電動機が発明されたのは約120年前ですが,コンピュータもない時代によくぞこんなものを考案したと思います。現在でも新幹線をはじめとする鉄道や各種産業に用いられ,社会を支えている主力のモータです。私の意見では,人類の10大発明の一つに挙げるべきものだと思っています。ところがこの20年ぐらいで永久磁石同期電動機が脚光を浴びるようになり,誘導電動機の研究者がどんどん少なくなってきていました。

そこに来てこのレアアースショックですから,慌てて再評価している研究機関も多いようです。誘導電動機は発明されて120年もたつので,もう研究することはないように思う方々もいましたが,そんなことは全くなく,その巧みな動作原理のゆえに,現在でも十分解明されていないところが多く残っています。更に発明された当時とは世の中が全く違っていますので,使われ方も変わってきています。例えば電気自動車などの開発はつい最近のことですので,それに合わせた設計をする必要があります。ところが誘導電動機の動作原理が難しいことから,長年かけて固まってきた設計を簡単に変更できないことも多いようです。また,誘導電動機に詳しい方が既に引退してしまって,詳しいことがわからなくなっているということも起きているようです。

当研究室では永久磁石同期電動機だけでなく,誘導電動機も古いけれど不思議で面白いモータだと考えて,ずっと研究テーマの一つとして取り組んできました。これまで述べた背景からか,今年になって誘導電動機に関する研究内容を急に評価されるようになってきました。昨年大学院生だった福島範晃君は,在学中に東芝三菱電機産業システムと行った誘導電動機の共同研究を発表し,電気学会優秀論文発表賞を受賞。福島君はその後東芝三菱電機産業システムに入社して,引き続きモータ設計者の道を歩んでいます(図2)。今年の5月に,筆者はIEEE-IEMDC(米国電気電子学会-電気機器とドライブに関する国際会議)で,安川電機と行った誘導電動機の共同研究を発表し,Poster paper award 2nd prize (ポスター論文賞銀賞)を受賞(図3)。これらを喜んでいる最中に,今度は同じく米国電気電子学会から,昨年安川電機と発表した誘導電動機の論文が,電気機器に関する論文の中で年間第3位に選ばれたとの連絡があり,今度の9月に米国アリゾナ州フェニックスで行われる授賞式に出席する予定です。

これらの研究は皆,コンピュータシミュレーションを駆使して誘導電動機の中で起きている現象を解明し,大幅な高効率化に寄与したものです。一時は多くの人がやめてしまった誘導電動機に関する研究ですが,信念を持って長くしつこく続けていると花開くチャンスもあるとつくづく思います。数年前は想像もしなかった誘導電動機に関する受賞ラッシュでした。国内外で,このような誘導電動機に関する研究が再び注目されるようになっていると実感します。それにしても我々にとっては,コンピュータの力も借りて相当苦労した挙句に得た研究結果でしたが,もしかすると120年前に誘導電動機を発明したテスラは,そんなのとっくにお見通しだったのかもしれないと思う今日この頃です。

電情日記

電磁波とアンテナ―よもやま話

森田 長吉

前々回(2009年4月),前回(2010年6月)に引続き電磁波の話です.今回は無線やアンテナの技術者,研究者の間では比較的よく知られているエピソードを話題の中心とします.テレビ放送波を受信するために用いられる八木アンテナ(日本では八木宇田アンテナという名称が適切と言われている)はその名称でわかるとおり日本で発明されました.当時東北大にいた八木秀次教授がUHF波の時代の到来を予見して始めた研究で,アンテナの基礎実験を担当した学生のデータがどうも予想と違うと八木教授が感じたところから事が始まります.同研究室で精力的にこの研究を押し進めた宇田新太郎講師の努力もあって偉大な成果が生まれました.1920年代後半のことです.ところが日本ではその後このアンテナがすっかり忘れ去られました.1942年に日本軍がフィリピンを占領した際,没収した英国通信機器資料中にYAGI ARRAY(八木配列)という言葉が見つかり,日本へ持ち帰っての調査で初めて八木アンテナであることが判明しました.英国では既にかなり精度の高いレーダーが開発され軍事目的に利用されていましたが,このレーダーシステムでYAGI ARRAYの原理が重要な役割を果たしていました.太平洋戦争末期に日本軍が太平洋の島々で次々に撃破された大きな原因は日本軍の飛行機や軍艦が闇夜の中で米軍の高性能レーダーによってことごとく探知されていたことにあるようです.恐ろしいことに八木宇田アンテナは,広島,長崎で一瞬にして20万人近くの人が犠牲となった原爆にも,爆発予定高度の距離合わせのための電波送受アンテナとして使われたと見られています.余談ですが八木教授は,阪大理学部物理学科主任教授時代に後に中間子論でノーベル物理学賞を授与された湯川秀樹博士を部屋に呼んで数年も論文がないとしかったことがあるそうです.幾つかの大学の学長もしましたが,1943年には創立まもない本学千葉工大(当時興亜工業大学)の顧問にも就任しました.

さて,本年7月24日をもってアナログテレビ放送は,岩手,宮城,福島の3県を除いて廃止され,ディジタル放送のみとなりました.関東圏はまもなく東京スカイツリーの上部のゲイン塔に設置されたUHF帯アンテナからディジタル放送波が放射されます.スカイツリーでは東京タワーの高さ(約333m)よりもはるか上の450m付近に第2展望台があります.その更に約30m上から上方にゲイン塔(写真ではてっぺんの非常に細く見える部分)がこの3月末に伸ばされ,これで塔の高さも予定の634mに達しました.東京タワーではディジタル用アンテナは230m付近にありますから,東京タワーでのアンテナ位置よりも約250m以上高いところに設置されたアンテナからディジタル放送波が発射されることになります.このアンテナはあらゆる方向に電磁波を飛ばす必要がありますから八木宇田アンテナは用いられませんが,特定の方向から来る電磁波を受ける受信アンテナとしてはまだまだ世界中で八木宇田アンテナが活躍することでしょう.

電情日記

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