• トップ
  • 教育内容
  • 教員紹介
  • 資格
  • 進路
  • 入試
  • JABEE
  • CITものづくり

電情日記

最先端大型装置

脇田 和樹

今回は電気電子情報工学科の先生方(芳賀先生、室先生、杉浦先生、野口先生)と共同で大学に申請し、採択された「物質の光学的性質を測定するための最先端大型装置」について話をします。多彩な機能をもたせたので命名した名前は少々長く「ラマンおよびピコ時間分解蛍光測定用走査型共焦点顕微鏡」です。この装置の主な特徴をまず列記すると

1.物質の構成元素の結合状態がわかる「ラマン散乱」特性を測定することができます。
2.物質の電子の状態がわかる「蛍光」のスペクトル(波長依存性)を観測できます。
3.蛍光の減衰特性を約10ピコ秒(10–11秒)の時間分解で測定できます。
4.このような物質の特性をサブマイクロメートル(10–6m以下)の分解能まで観測でき、その三次元像を作成することができます。
5.測定するための試料を4K(-269℃)まで冷却することができます。

などです。

このような特徴を含めもう少し装置について知ってもらうために、次に装置の名前に付けた4つの用語について簡単に説明します。

A.蛍光
物質に光を照射すると物質内の電子はエネルギーの高い状態になり、その後元の状態に戻ります。元の状態に戻るとき、光(蛍光といいます)を出す場合があり、その光から電子の状態などの物質の性質を調べることができます。この光の波長(色に対応しています)も重要で、スペクトルとして波長に対する強度を観測しますが、光照射を終えた後、蛍光の消えていく特性を調べることも大切です。消えていく速さがゆっくりならその変化を捉えることは簡単ですが、ナノ秒(10–9秒)やピコ秒(10–12秒)の速さで消滅する光の減衰特性を観測することは大変です。またそのような速い減衰を観測するためには、物質に照射する光の時間幅(パルス幅)が光の減衰する速さより短くする必要があります。今回導入した装置では約10ピコ秒(10–11秒)程度の光の減衰まで観測でき、そのために100フェムト秒(10–13秒)のパルス幅をもった光を物質に照射しています。

 

B.ラマン散乱
散乱の名前はこの現象を発見し、ノーベル賞を受賞したインドの科学者ラマンに由来します。物質に光が当たると大部分は同じ波長(色)の光が散乱します(レーリー散乱)が、非常に僅かですが少し波長が短くなった光や長くなった光も散乱されます。この様に波長が異なった散乱の一つがラマン散乱です。この原因を簡単に説明しますと。そもそも光の散乱は光が物質や鏡に跳ね返されているのではなく、入射した光により物質内の電荷をもった電子が振動して、その結果として光が発生します。この光が散乱光となります。物質の中の電子の多くは原子に捕まっていて、物質に光が照射されると熱による原子の振動とそれに捕まっている電子の光照射による振動の重ね合わせの光が発生します。この光には結果として波長が短くなった成分と長くなった成分を含みます。このような成分の散乱光がラマン散乱です。熱による原子の振動は隣の原子との結合の様子に影響されるため、ラマン散乱を観測すると、物質の原子の結合の様子がわかります。

C.共焦点顕微鏡
通常のラマンや蛍光顕微鏡と異なるところは、照射光がピンホール(穴)を通りレンズによって測定試料の測定ポイントに集光されることです。そしてその光による散乱や蛍光はまたレンズにより結像する点の面(結像面)のピンホールを通り、知りたいところの情報だけがこのピンホールから取り出すことができる機構となっています。通常のラマンや蛍光顕微鏡ではこのような2つのピンホールがなく、均一に試料に光照射され、測定ポイントからずれた点の散乱や蛍光も結像面ではピントはずれていますが弱い信号としてやってきます。このような望まない光が全体として多くなれば、像のコントラストが低下します。以上のことより共焦点顕微鏡では通常の顕微鏡より高いコントラストと分解能が得られます。

D.走査型
走査型とは面内にわたって観測するタイプであることを言います。つまり測定したある面の情報を画像とすることができます。さらにこの装置では深さ方向についても走査でき、測定結果から三次元像を作成することができます。また、前に述べた共焦点顕微鏡の特徴により、この三次元像は1ミクロンメートル以下の分解能があります。

以上、新しく設置した装置について簡単に説明してきましたが、4月にはこの装置の取り扱いについての最終講習会も終えました。現在は卒業研究生や大学院の学生とともに熱電材料として期待されるTl系化合物の変調構造やナノ構造体、また有望な太陽電池材料であるCuInS2の薄膜やナノワイヤーなどついて研究を開始したところです。興味ある学生さんは千葉工業大学の卒業研究生や大学院生となって一緒に研究してみませんか。

電情日記

米国電気電子学会産業応用部門大会出張報告

山崎 克巳

IEEE Industry Applications Society Annual Meeting(米国電気電子学会産業応用部門大会)は,世界中から参加者が集まる会議であるが,その有様は他の国際会議とはかなり異なる。まず,ポスターセッションがなく,全てオーラルセッションであり,一件あたり発表20分,質疑応答10分と,たっぷり時間をとる。その結果,当然のことながら発表できる論文は絞り込まざるを得ず,採択率のかなり低い難関の会議となっている。このため筆者の分野である電気機器の諸氏にとっても,最も権威のある会議と認識されている。今回は,本会議に昨年2008年10月と,8年前の2001年9月に参加した経験を比較しながら報告したく思う。失敗からリベンジに至る一例として,ご参考になれば幸いである。

8年前,2001年頃の筆者は,既に10年近く行ってきたモータの電磁界解析に関する研究が,ようやく日本国内で評価されるようになり,国際会議にも積極的に参加し始めたころであった。研究者としては最も油の乗った時期であり,権威があるといわれている本会議にも論文を投稿し,採択の運びとなった。渡航準備を進めていたのは9月上旬頃である。

ちょうどその時,あの事件が起きた。9.11,米国同時テロである。会議の開催はその約2週間後であり,ほとんどの日本人は米国出張を取りやめたが,筆者は自分に弾が当たるわけがないといった勢いで旅立った。しかし米国行きの飛行機に乗り込むとガラガラで,日本人は一人もいない。もしかすると自分はとんでもない所に行くのではないかと,初めて一抹の不安を覚えた。思えば,それが躓きの始まりであった。

シカゴの発表会場に到着すると,何やらどうも普通の国際会議と雰囲気が違う。会場のほとんどの人はみな顔見知りのようであり,質疑応答も皆ファーストネームで呼び合っている。そんな中,筆者の発表が回ってきた。発表内容には自信があったが,発表が終わると会場は水を打ったように静まり返り,質問が一つも出てこない。仕方なく座長が,どうでもいいような質問をして,筆者のプレゼンテーションは終わった。言い知れぬ疎外感と敗北感を味わった。発表終了後にGE(General Electrics)の方が,なぜか小声でこっそりと“Good work”と褒めて頂いたのが唯一の救いであった。

なぜそのような反応だったのか,あのときはまるでわからずにすっかりへこんでしまったが,今では理由がはっきり分かっている。それは,いわば広義のジェットラグとでもいうべきか.....

当時日本では既に,電磁界解析を利用したモータ設計が当たり前のように行われつつあったが,欧米の産業応用分野ではまだ充分に認知されておらず,日本より5,6年は遅れていた。筆者の発表内容は,あの会場にいた大部分の方々にとって,それまでの知識に対して大きな隔たりがあったのだ。それを見知らぬ東洋人が怪しげな英語で説明するのだから,分かるわけがない。当時の筆者の視野は狭く,そのことに気がつかなかったのが最大の敗因であった。筆者はまるで,どこからか迷い込んできた野良犬か,あるいはテロリストのようであったのかもしれない。無視されて当然というところである。

その後は,この会議は自分には合わないと考えて投稿をやめ,別の国際会議を通して細々と国際学会活動を続けていた。ところがここ数年で,筆者を取り巻く状況が大きく変わってきた。各種国際会議で,なぜか筆者の発表だけ質問時間が通常の何倍も取られたり,米国の電気機器分野の重鎮であるWisconsin大学のTomas Lipo教授が,ご自身の講演の中で,筆者の最近の論文を引用され,直接面識も無いのに“Beyond Yamazaki”などと述べられライバル視して頂いたりと,驚くようなことが続いた。やがて米国電気電子学会のMagnetics Society(磁気応用部門)より,国際会議発表賞を戴いた。筆者の行ってきた研究が,国際的にも少し評価されるようになったと感じられた。

このような事情から筆者は,8年前に玉砕した米国電気電子学会産業応用部門に対して,再びチャレンジする機が熟したと判断した。リベンジである。

今回の会議はカナダのエドモントンで行われた。筆者の分野のElectric Machinesの発表件数は約60件,そのほとんどは欧米勢で占められ,日本人の発表はたったの3件であった。かなりお寒い発表件数だが,これは他の分野も同様で,日本の発表が少なくなっているとのことである。筆者は到着するやいなや,美しい紅葉につつまれた町並みに後ろ髪をひかれつつも,ホテルの部屋に閉じこもってスライド作成などの発表準備に取り掛かった。今回は出発前に時間が取れず,ほとんど準備ができなかったためである。それでも,なぜ8年前に本会議で筆者の発表が受け入れられなかったのかを入念に分析し,時間の許す限りの発表準備を行った。

今回の発表内容は永久磁石モータの電磁界解析に関するものである。永久磁石モータは,我国における希土類永久磁石の発明と共に,国内外でハイブリッド・電気自動車などに広く用いられるようになったモータだが,磁石に流れる渦電流よる発熱で熱減磁を起こす恐れがあり,問題となっている。この現象を把握する上で,電磁界解析は極めて強力なツールであり,日本国内でも多くの企業が,市販の電磁界解析ソフトを用いて,盛んに設計に反映させている。一方,筆者の研究室で学生と共に作り上げてきたソフトは,高調波電磁界分析手法や高速自動有限要素生成手法など,市販ソフトにはない機能や計算高速性の点で,現在でもなお優位性を保ち,関連の研究で合計9人の学生の電気学会論文発表賞受賞に至っている。今回の発表は,モータの形状によって渦電流の発生要因が全く異なってくることを初めて明らかにし,損失低減の指針を与えるものである。

筆者の発表は,会議二日目の午後であった。昼休みに発表の最終チェックを行った後,会場の部屋に入ると,なぜか見知らぬ人が次々と握手を求めてくる。8年前にはありえなかったことである。筆者の最近の論文を読んだという人が多かった。発表を始めると,8年前とは違って,聴講者の視線や気の集中がよく感じ取れた。そして発表が終わると,座長が,次はコーヒーブレークの時間だからと,質疑時間をオーバーしての質問攻めが始まった。筆者は疲労困憊,脳死寸前となったが,これはうれしい悲鳴である。質問内容も8年前とは全く様変わりし,的を射たものが多かった。これは,欧米でも永久磁石モータの利用が進んでおり,またその性能向上に電磁界解析が不可欠であることが広く認知されたためといえる。ようやく質疑応答が終わって,残り少ないブレークの時間にコーヒーを戴こうとしたのだが,次々に筆者のところに人が訪れ,さっき聞き逃したと言わんばかりにいろいろな質問をしてきた。また,発表で用いたパワーポイントファイルを頂けないかとか,関連論文を送ってくれないかなど,様々な要求があり,結局コーヒーを戴くことができなかった。しかし皆に「良い発表でしたね」と褒めて戴き,長い間喉に刺さった小骨がようやく取れた思いであった。

ところで,我国の電気機器分野は,ハイブリッド自動車や新幹線などの鉄道技術からも分かるように,現在も世界トップレベルにあるのに,なぜ国際学会において採択件数が極端に低いのか。ひとつの理由として,我国の電気機器マーケットがそこそこの規模であり,これまで多くの研究者が外国に目を向ける必要がなかったことが考えられる。いわば鎖国であり,言語の壁が今もなお非常に厚い。また,ときどき思うのだが,欧米人は,日本人の言語コンプレックスをうまく利用しているふしがある。

一方,だからといって欧米のやり方を単に崇拝するのは危険と考える。前述のように我国は,独自の発展を遂げた高い技術を多数持っている。その多くは,すり合わせ形の技術であり,欧米のシステム的考え方と相容れない。欧米のシステムに完全に乗ってしまうと,我国の良いところがなにも残らなくなってしまう恐れがある。少なくとも筆者は,工業製品ならまだしも,人の品質保証などナンセンスであると考えている。人間の能力とは,そんな単純なものではない。いったん覚えた事をすっかりと忘れることもある。逆に土壇場で凄い力を出すこともある。学生一人一人を見ても,能力の伸びる方向は人それぞれである。それらの森羅万象をうまくすりあわせ,全体として機能させるのが日本流,システムでバラ売りにしてしまう欧米にはない,我国の優位性と考えている。

電情日記

2009年5月
« 4月   6月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

このページのトップに戻る