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電情日記

Pay it Forward

杉浦 修

ひとつのICチップにたくさんのトランジスタを集積して高速な計算をしても,その計算結果を外部に出力しなければ意味がありません。外部配線は内部配線に比べて信号を伝えるのに大きな電力を必要とし,信号をICチップの外に出すのにも時間がかかってしまいます。どのぐらい時間がかかるのか単純化したモデルで計算してみましょう。入力信号をそのまま出力するだけの単純なゲート(バッファ回路)を考えましょう。次段のゲートが1個なら時間τで信号を転送できるとします。このときの負荷を1と表現しましょう。出力にゲートがn個つながっていれば負荷はn,転送時間は負荷に比例して長くなり,ゲートn個に信号を転送できる時間はnτになるとします。外部配線が負荷100に相当した場合,信号をICチップの外に出力することは,ゲート100個に信号を転送するのと同じ状況です。この負荷をゲート1個で駆動すると,転送時間は100τ になってしまいます。転送時間を短くするため,まずゲート1個でゲート10個に信号を転送します。負荷は10になるので転送時間は10τです。信号を受けたゲートがそれぞれゲート10個に時間10τで信号を転送すれば,合計10×10=100個のゲートに時間10τ+10τ=20τで信号を転送できます。ゲート1個で負荷100を駆動するよりも,ゲート11個,負荷10で分担した方が5倍も速く転送できます。では,もっと速くすることはできないでしょうか?「負荷Kを駆動するために,1つのゲートの負荷がnになるように配分してN段(nN=K)接続した場合,転送時間を最短にするnはいくらか?」答は,nを実数とすればn=e=2.718・・・,整数とすればn=3です。こうした計算に遭遇したのは約30年前のMeadの本[1]が最初でした。ゲート間の情報転送を人間同士の情報伝達に例えると,大人数に情報を早く伝えるには「1人が3人に伝えればよい」と言い換えられるでしょう。(ここでいう情報とはマスメディアで同時放送できるような画像・音声・文字情報ではなく,一対一でないと伝えられないような知識・経験・技能と考えてください。)

この計算が集積回路以外のこんなところにもあったのかと妙に感心したのが映画”Pay it Forward”(ミミ・レダー監督,2000年)でした。社会科シモネット先生の「世の中を変える方法を考え,行動してみよ。」という課題に「1人が3人を助け,助けられた人は別の3人を助ける。これを繰り返せば世の中を変えることができる。」とトレバー少年は提案し,実行に移すという内容だったと思います。上記の計算は,集積回路における”Pay it Forward”とも言えますね。(上記はそのままでは「外部のK人」に善意を伝えることに対応しますが,「内部のK人」に善意をゆき渡らせる場合でもKが十分大きければ答はやはり「3人」です。)

現在,講義で電子デバイスを教える立場になってみると,「学生1人がまだ理解していない学生3人を教え,教えてもらった学生が新たな3人を教えれば,あっという間にクラス全員が試験で100点を取れるようになるのでは?」などと想像することがあります。このままでは教授力の拙さを学生に責任転嫁しているような暴論ですが,講義を聴くだけでなく友達と話し合ってみればずっと理解が進むと本当に思っています。友達同士話してわからなければ講義担当者に質問しましょう!演習・実験を問題の解き方を聞くだけ,測定するだけの時間にしないで是非有効に使って欲しいと思います。映画“Pay it Forward”の日本語タイトルは「ペイ・フォワード【可能の王国】」でした。学生がお互いに教え合い議論し合う行動を顕著にできれば,「電子デバイス【可能のクラス】」,「千葉工業大学【可能の大学】」と銘打ってもいいかなと思っています。
1) C.Mead and L.Conway: ”Introduction to VLSI Systems”, Addison-Wesley (1980)

電情日記

商品を見やすく分類する技術

小原 和博

新年あけましておめでとうございます。電気電子情報工学科の小原(こはら)です。この電情日記では約一年ぶりの登場です。よろしくお願いいたします。この一年間に起きた出来事からひとつ話題を提供させていただきます。2008年3月に、私の研究室の大学院生(土井添淳一君)が情報処理学会第70回全国大会で学生奨励賞を受賞しました。

人工知能とは、コンピュータを用いて、人間の知的な情報処理機能(学習、推論、認識、意思決定など)を実現することを目標とする研究分野です。私の研究室では、人工知能を用いて世の中に役立つ技術を開発することを目標に研究を進めています。具体的には、①テーマパークの混雑緩和、②商品購入の意思決定支援、③医療分野への応用などです。前回の電情日記では、①テーマパークの混雑緩和に関して紹介しました。今回は、②商品購入の意思決定支援に関して紹介します。

人工知能の応用研究のひとつとして、自己組織化マップと階層分析法を用いた商品購入の意思決定法について研究しています。受賞した土井添君の講演題目は「自己組織化マップによる商品の分類と可視化」です。自己組織化マップはニューラルネットワークの一種で、多次元の入力データを学習して2次元のマップを出力します。例として、ノートパソコンの2004年夏モデル(日本国内販売の8社119機種)を対象に、CPUスピード、ハードディスクドライブ容量,メモリ容量、重量、バッテリー時間、価格、光学ドライブの種類、フロッピーディスクドライブの有無、ディスプレイサイズを入力して、2次元のマップを出力した結果を図1に示します。図中の文字はパソコンの製品番号です。

5つの集まり(クラスタ)に分かれています。クラスタ1には比較的高機能、クラスタ2には比較的低機能&安価、クラスタ3には高機能&高価、クラスタ4にはモバイル(可搬性の高い)、クラスタ5には小型のパソコンが分類されています。このようなマップがパソコンショップに掲示されていると便利だと思いませんか。似たような特徴を持っているパソコンが近くに配置されますので、マップを見て色々と比較できます。

土井添君の講演では、自己組織化マップを用いて商品を分類する場合と、他の方法(階層クラスタ分析、非階層クラスタ分析)により分類する場合を比較しました。ノートパソコン、デジカメ、乗用車という3つの商品を例に取って比較した結果、可視化能力(見てわかりやすい)だけでなく、分類能力(正しく分類できる)に関しても自己組織化マップのほうが優れていることを示しました。講演内容と質疑応答の態度が高く評価され、受賞にいたりました。

さて、私の「人工知能」という講義で、自己組織化マップによりパソコンの分類マップが作成される様子を実演します。お楽しみに! それでは講義でお会いしましょう。

図1 ノートパソコンの自己組織化マップ

電情日記

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